11-5. 「煮しめ」
「煮しめ」は、日本の代表的な家庭料理の一つであり、もともと、お正月やお祭りなど人がたくさん集まったときに作って出すおもてなし料理である。作り方には若干の違いはあるが、福岡県北部や西部の筑前地方で作られている「筑前煮」や各地に「うま煮」があり、似たような味である。
お彼岸の相良三十三観音巡りで最高の楽しみは、集落の方々のお茶のおもてなしであるが、お茶請けには必ず漬物や味噌漬け、それに「煮しめ」が並べてある。「煮しめ」に対して、現在、岐阜県可児市在住の金子さんから次のような便りをいただいた。
「・ ・ こじゃれた筑前煮(鶏肉とニンジン・ゴボウ・レンコン・シイタケなどを油で炒め、砂糖・醤油で味を付け煮詰めたもので筑前地方の郷土料理)とは違い、カシワを中心に、レンコン、大根、ニンジン、こんにゃく、戻した干し椎茸などを炊き合わせた、ごく簡単で、出汁のきいた「おふくろの味」とも言うべき本当においしい煮物です。私はまだその域に達せずにいます」
金子さんも指摘されているように、人吉・球磨を含む南九州地方の煮しめは、前もって油炒めをしないのが特徴である。図1は人吉・球磨地方の「煮しめ」である。左側にコンニャク、サトイモ、昆布。 真ん中にタケノコ、ゼンマイ、ワラビ、厚揚げ。 右側にニンジン、椎茸、豆腐、時には蒲鉾や竹輪も煮しめられている。もちろん葬儀での炊き出しでは油揚げなども入れた精進煮しめである。
図1. 人吉球磨地方の煮しめ |